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東京地方裁判所 平成7年(ワ)2796号 判決 1995年12月19日

原告

金珍淑

被告

佐藤清

主文

一  被告は、原告に対し、金三七三万四二九八円及び内金三五三万四二九八円に対する平成四年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、七七八万二四〇二円及び内金七〇八万二四〇二円に対する平成四年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、普通乗用自動車に同乗中、交通事故に遭つて負傷した女性が加害車両の運転者に対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実等

1  本件交通事故の発生

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により前額部打撲挫創、左眼部切創、左足舟骨骨折等の傷害を受けた。

事故の日時 平成四年三月一八日午前三時一五分ころ

事故の場所 東京都新宿区大京町二四番地先路上

加害者 被告

加害車両 普通貨物自動車(足立八八す六五九四)

被害者 原告(被害車両の助手席に同乗)

被害車両 普通乗用自動車(練馬三三ろ三三四五。訴外北脇敏一運転)

事故の態様 被害車両が直進中、道路左側に停車していた加害車両が、突然無灯火でUターンを開始したため、被害車両に衝突した。

2  責任原因

被告は、夜間、Uターンをするに際し、右後方に注意し、安全に進行しなければならないのにこれを怠り、漫然無灯火でUターンした過失により本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある(甲一、二)。

3  後遺障害

原告は、顔面右額部に長さ二・七センチメートル、幅一ミリメートルの瘢痕を残したが、これは女子外貌醜状として、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級一四号に相当する。

4  損害の一部填補

原告は、自賠責保険から二二四万円の填補を受けた。

三  本件の争点(損害額)

1  原告の主張

(一) 検査料 一万四三三〇円

(二) 文書料 二万八二四〇円

(三) 休業損害 四六万三八〇八円

原告は、本件事故当時、クラブを経営していたところ、本件事故による入通院のため三八日間休業した。賃金センサス平成五年女子労働者高専・短大卒(原告は、韓国の四年制大学を二年で中退しており、短大卒と同程度の学歴を有している。)、四〇歳ないし四四歳の年収四四五万五〇〇〇円を基礎としてその間の休業損害を算定。

(四) 逸失利益 四八一万六〇二四円

原告は、本件事故により自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級一四号の後遺障害を残しており、今後一〇年間にわたり、右(三)記載の労働能力の一四パーセントを喪失した。右(三)記載の収入額を基礎としてライプニツツ方式により算定。

(五) 慰謝料 四〇〇万〇〇〇〇円

入通院慰謝料として一〇〇万円、後遺障害慰謝料として三〇〇万円

(六) 弁護士費用 七〇万〇〇〇〇円

2  被告の主張

損害額については争う。

原告は、前記二二四万円のほか、さらに二八六万〇八三〇円(治療費一二四万一六一〇円を含む。右合計五一〇万〇八三〇円)の填補を受けた。

第三争点に対する判断

一  損害額について

1  検査料 一万四三三〇円

甲一二により認められる。

2  文書料 二万七八一〇円

甲四、一二、一三によれば、原告は、東京女子医科大学病院及び前田病院の文書料として、右金額を負担したことが認められる。

3  休業損害 三五万九七四六円

甲一の1、2、三の1、四ないし七、九の1、2、一〇の1、2、原告本人によれば、原告は、一九七三年(昭和四八年)三月韓国の四年制大学の舞踊学部舞踊教育学科に入学したが、同校を二年間で退学した後、昭和六二年来日し、平成二年一〇月東京都港区内にクラブ「アミガ」を開店し、同店を経営しており、本件事故当時三七歳であつたものであるが、本件事故による入通院のため同店を三八日間休業したことが認められる(なお、原告の本件事故当時の収入を認めるに足りる的確な証拠はない。)。

原告は、本件事故当時の収入について、四年制大学を二年で中退したから、賃金センサスの女子労働者高専・短大卒の当該年齢の年収額を基礎とすべきであると主張するが、韓国の四年制大学の中途退学者が直ちに本邦における短期大学卒業者程度の収入を得ていたものとする蓋然性はなく、むしろ年齢別平均収入を用いるのがより蓋然性が高いものというべく、賃金センサス平成四年女子労働者・学歴計・三五歳ないし三九歳の年収三四五万五七〇〇円を基礎として右三八日間の休業損害を算定すると、次式のとおり右金額となる。

三四五万五七〇〇円÷三六五日×三八日=三五万九七四六円(一円未満切捨て)

4  逸失利益 三七九万一六三二円

甲七、八、原告本人に前記争いのない事実によれば、原告は、本件事故により平成六年三月一日(当時三九歳)顔面瘢痕(右顔面に長さ二・七センチメートル、幅一ミリメートル)、左足内筋痛の後遺症を残し(なお、右顔面瘢痕は今後も不変である。)、症状が固定したものであるが、本件事故後、飲酒をすると頭が痛くなる等するため、クラブの営業に支障を生じ、さらに資金繰りの関係もあつて、平成四年一〇月クラブを閉店し、現在まで無職であることが認められる。

右によれば、原告は、本件外貌醜状の後遺障害により、前記症状固定の日から一〇年間(原告の請求は右期間であり、被告も特段争つていない。)、その労働能力の一四パーセントを喪失したと認められるから、原告は、本件事故に遭わなければ、前記症状固定の日から一〇年間、少なくとも賃金センサス平成五年女子労働者・学歴計・三五歳ないし三九歳の年収三五〇万七四〇〇円の収入を得たと推認されるので、右額を基礎として、ライプニツツ方式により中間利息を控除して、一〇年間の逸失利益の現価を算定すると、次式のとおり、三七九万一六三二円となる。

三五〇万七四〇〇円×〇・一四×七・七二一七=三七九万一六三二円(一円未満切捨て)

5  慰謝料 三二〇万〇〇〇〇円

原告の受傷内容、入通院期間、後遺障害の内容、程度その他本件に顕れた諸般の事情を斟酌すると、原告の慰謝料としては、入通院慰謝料として五〇万円、後遺障害慰謝料として二七〇万円と認めるのが相当である。

6  右合計額 七三九万三五一八円

二  損害の填補

原告が自賠責保険から二二四万円の填補を受けたことは、当事者間に争いがなく、乙一によれば、さらに原告は、被告の任意保険会社から原告が請求していないことが明らかな治療費分一二四万一六一〇円を除く一六一万九二二〇円の填補を受けたことが認められるから(右合計三八五万九二二〇円。なお、原告は、その余の既払金受領の事実について争うが、原告本人によれば、原告のこの点の記憶ははなはだあいまいであり、採用できない。そして、右治療費分を除く既払金については、乙一、弁論の全趣旨によれば、実質的に原告の損害填補の目的で支出されたものと認められるから、これに充当されたものと認める。)、右填補後の原告の損害は、三五三万四二九八円となる。

三  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情に鑑みると、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、二〇万円と認めるのが相当である。

第四結語

以上によれば、原告の本件請求は、三七三万四二九八円及び内金三五三万四二九八円に対する本件事故の日である平成四年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

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